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Muv-Luv SS脇役 整備班の場合2

 12月10日 横浜基地


 頭がまるではっきりしない。――無理もない。ここ一週間の平均睡眠時間は一日あたり3時間を切っていた。
 タイマーで無理やり叩き起こされた俺は、大きな欠伸をひとつしてハンガーの外の水道に向かい、ホースで直接、頭に水をかぶる。
 冷たい水が頭にしみる。

 「何やってんだい? 班長、頭でもイカレちまったのか? 」

 冬の早朝に頭から水をかぶる俺を見て、起床ラッパ前にもかかわらずランニングをしていた衛士が、足をとめ俺に話しかけてきた。
 俺は投げるかのように適当に敬礼を返し言った。

 「……今日の準備が終わったのが2時間前なんだよ」

 そいつはご苦労なこった、衛士はニヤリと笑った。

 「……お前さんも、ずいぶんと気合がはいってるみたいじゃないか? 」

 頭を振って水滴を飛ばしながら聞いてみた。
 わかるか? と彼女はその場でシャドウボクシングをしながら返事をした。繰り出すパンチにキレがある。

 「初の仮想敵部隊選抜だろ? 」

 仮想敵部隊に選ばれるというのは名誉なことだ。その腕が一級品であることを誰もが認めるということなのだから。
 今回は横浜基地中の衛士からわずかに16名だけが選ばれていた。
 彼女に気合がはいるのも無理はなかった。

 俺はツナギのポケットからタバコを取り出し火を点けようとして――止めた。
 嗜好品であるタバコは貴重品であり、俺の給料では一日一本が限度だった。頭をはっきりさせるために吸う、などという贅沢はできない。

 「今日のテストは班長のとこの新製品なんだろ? 」

 シャドウボクシングを続けながら彼女が聞いてきた。新製品ね――。おかしな表現だ。

 「あぁ、そうだ。――ウチの連中が作った代物だ」

 正確には少しばかり違うが、でもそんなの関係ねぇ――。俺は戦術機のこと以外は、基本的に何もかもどうでもいいタイプの人間だ。

 「OS変えたぐらいでそんなに性能があがるもんかね? 」

 俺は反射的に、その性能の素晴らしさを滔々と自慢してやろうかと口を開きかけて――止めた。
 彼女は少し不審そうな表情を浮かべたが、突っ込んで聞くこともなかった。

 「まぁ、いずれにしろアタシが皆、叩きのめしてやっからよ! ……ヒヨッコどもに覚悟しておけって言っておいてくれ! 」

 シャドウボクシングのスピードを最高値まであげ、複雑なコンビネーションを俺に見せつけると彼女は走り去っていった。
 去っていく彼女の背中にむかって俺は呟いた。

 「何のヒヨコなのかねぇ。……ご愁傷様、ミュン中尉。……美味いタバコのためには生贄が必要なんでな」

 今日の一本は間違いなく最高の味を楽しめる――。
 俺はトライアルが楽しみで仕方なかった。










 
 ハンガー内の大型ディスプレイにトライアルの様子がライブで中継されていた。
 このディスプレイは通常では、皆が共有しなけらばならない情報――整備順序や補給予定――を流しているものだが今日だけは変えてある。
 そこには戦術機の派手な市街戦の様子が大写しになっていた。

 本来は作業中にこういったものを流すのは好ましくない。整備士の集中力が削がれてしまい、作業に不備がでる恐れがあるからだ。
 でも今日だけは許そう、と俺は思っていた。

 整備士という人種は、自分が担当している戦術機に相当な愛着を持っている。
 そして――意外と思うかもしれないが――それを駆る衛士にも。
 だからこそ、下手な奴、機体をミスで壊す奴は嫌われ、逆に上手い奴、戦術機の能力を使い切れる奴は整備士に好かれる。
 まさに俺たちのチームの代表という感覚だ。
 特にウチの班の連中は若い奴が多いので、その傾向が強い。
 そしてそんな連中に、俺たちの代表が圧勝している様子を見せたらどうなると思う?

 案の定、俺の予想は大正解で――ウチの整備士連中はニヤニヤしながら作業を軽快にこなしていた。
 きっと外国人の衛士から見たら、日本人整備士は常にニヤニヤしていると不気味がられるのは間違いない。

 ――だがそれもいいだろう。これを喜ばずに何を喜べっていうんだ?

 ウチの連中の作業確認の声が普段の倍以上にデカい。そして全ての行動が通常の三倍くらい素早く行われていた。
 
 ――普段もこのくらいやりやがれっ、馬鹿野郎ども!

 俺は心の中でそう怒鳴り散らかした。――もちろんニヤニヤしながら。
 午前中の結果は予想通りだった。
 ウチの連中の手がけるヒヨッコ軍団は破竹の勢いでスコアを重ね、並み居る古参の全てを跳ね飛ばし――。

 最高の成績で午前中を終えた。



 
 昼休みの喧騒は凄まじいものがあった。
 XM3の素晴らしさを体験した衛士たちは、自分の機動をXM3に覚えさせようと機動禁止区域でも戦術機を動かすものだから危なっかしくて仕方なかった。
 先行入力の練習や動作キャンセルの試しなども、いたる所で行われていた。
 司令部からの禁止放送がなければ怪我人のひとりやふたりがでてもおかしくない状況であった。

 ウチの連中がXM3の開発担当チームの整備を担当していることは周知の事実だったので、ウチの連中は整備補給作業中にもかかわらず質問攻めにあっていた。

 ――馬鹿野郎! いま、忙しいんだ! ――
 ――後にしてくれませんかっ!中尉殿! ――
 ――どいてくれ!推進剤いれるのを邪魔するな! ――

 ウチの連中は作業に大わらわでとても応対できる状況ではないのだ。群がる衛士たちをつっけんどんに追い払っている。
 しかしその表情には笑みが隠されていて、俺は連中がこの成功を本当に喜んでいることを感じていた。
 衛士たちは執拗にウチの連中に喰らいつき、すこしでも情報を引き出せればと離れない様子が見えた。

 ――これはもう、やるしかないな……!

 そう。俺には秘密兵器があるのだ! 
 XM3公開の圧倒的反響を予想した我々は神宮司軍曹の協力のもと、一本のビデオを作製していた。

 『実践!これが新OSだ――XM3使用ビデオマニュアル』

 ハンガーの奥から移動式大画面モニターを引っ張り出しビデオを再生する。
 途端にそこは黒山の人だかりになっていった。集まった衛士たちが食い入るようにビデオを見ている。
 俺はその様子を一人悦になって見ていた。

 ――お嬢ちゃんたちも頑張ってたもんな。

 いま公開しているのはウチの連中が撮り貯めた、207訓練小隊の演習の模様をもとに製作したビデオなのだ。

 新OSが副司令の手により導入されて以降、彼女らは毎晩遅くまで、実機やシミュレーターに張り付き頑張っていた。
 それを見たうちの若い連中が何とか彼女らの力になれないか、と神宮司軍曹と話し合ったのだ。

 実機演習場に普段の三倍の記録カメラを設置し全てを撮影する。データロガーも簡易版でなくフルスケールに変更した。
 もちろん整備はしっかり行う。
 彼女らが部屋に帰った後、夜通し作業し完璧の状態に戻し翌朝には最高の状態にして引き渡す。
 嵐のような一ヶ月であった。
 だがその日々は充実していて、皆で何かを作っているという感覚が俺には嬉しかった。
 肉体がどんなに疲弊しようとも、その喜びが俺たち整備班を走らせていた。
 そうだ。俺たちは確かに未来を感じていた――。

 一際大きな歓声がモニターの前でおこった。

 ――小僧の機動だな……。

 モニターを見なくともわかる。そこには間違いなく20706吹雪の機動が再生されているのであろう。
 副司令から初めてアイツの機動を見せられた時――。
 俺は戦術機の機動が新しい歴史に突入したのを感じた。
 
 もともと俺は最近の戦術機の開発の流れが気に入らなかった。パワー増大主義。いかにも米国的思考だ。
 特にラプターという機体は気に食わない。

 機体の出力を大幅に上げたのはまだいい。
 気に入らないのは別のことだ。
 ステルス性能を強化し、レーダーを利きにくくする。
 レーダーにはせいぜい大型の鳥くらいにしか表示されない。
 F-15などとは違い、ラプターは他国には売却しない。
 米国が何を考えているのかが、見えすぎて俺は好きになれなかった。

 あれは対BETA用戦術機ではない。対戦術機用に作られた機体なのだ。

 おまけに顔も悪い。少しは武御雷の優雅さを見習えってもんだ。
 
 ――それに比べ副司令と小僧、それとお嬢ちゃんたちが作ったこいつはどうだ――?

 主眼が戦術機の機動、操作簡略におかれており、たとえ型遅れの撃震でさえ、CPUを変えXM3をぶち込んでやれば三割は性能が向上する。
 効果は絶大だ。使い方によっては五割近くまで戦力を向上できるのでは? と俺は見ていた。
 開発はこういう方向でやらなければならない――。
 しがない整備士の夢でしかないが、それを叶えてくれるのがXM3であった。

 誰かに肩を叩かれ俺は振り返った。
 明らかに不機嫌な顔をした衛士がそこにはいた。
 ミュン中尉だ――。
 彼女はたっぷり三秒程も俺の顔を睨み付けると、一転、大きく笑いながら俺にパンチをくれるふりをした。

 「完敗だよっ! 班長! ……黙ってるなんてヒドイ奴だな、アンタはっ! 」

 気風のいい笑顔だった。
 すまんね――。俺も笑ってそう返した。

 彼女の顔を見たことでタバコのことを思い出す。
 あと数時間後には至福の時が訪れる――。
 全ての作業を終え、整備班の連中と祝杯をあげる。宴は大いに盛り上がるだろう。
 お互いの苦労を充分にねぎらった後で、ハンガーの外へ一人で赴き、そこで一服するのだ――。
 いや、場合によってはもう一本吸ってもいいかもしれない。なにしろ今日は特別の日なのだから――。


 だが俺の夢は叶うことがなかった。


















 『コード991発生! 繰り返す、コード991発生! 』

 その声が流れた時、ハンガー内の全員が設置されているスピーカーを見つめていたと思う。
 皆、何を言われたのか、わからなかったのだ。

 防衛基準態勢1が発せられる。ハンガー内に緊張が走った。
 信じられなかった。

 ――極東最大の国連基地なんだぞ! なんでここに来るんだ? 佐渡島から来たにしても何故、ここまで気づけなかった?

 疑問が疑問を呼び、俺の頭は混乱していた。
 だが、口を開き呆けている衛士の姿を目にした瞬間、俺は自分を取り戻した。
 俺は生涯でもっともデカい声で怒鳴った。

 「テメェら! 実弾装備に変更だっ! 回せぇぇぇっ! 」

 

 悪夢だったと思いたい――。ハンガー内は恐慌状態だった。出口に殺到するもの、戦術機に飛び乗ろうとするもの、混沌の極みだった。
 慌てて走りまくる衛士の群れに流されて、整備士が実弾装備を取りにいけない様子が見えた。
 戦場で命を張っている衛士にこんなことを言うべきではないかもしれないが――。

 ――国連軍の衛士はヌルいのだ。

 所詮は流れてきただけの根無し草。国土防衛の意地のある帝国軍などと比べると、最後の一線で脆い。

 もちろん、失った国土を回復させん、と命を賭けて戦うものもいる。
 だがそれは割合で見たら、全体の三割程度であろう――。
 そして残りは――。
 食えないから兵隊をやっているにしか過ぎない連中なのだ。

 馬鹿が戦術機に乗って逃げようとした。それに踏み潰されそうになる衛士がいた。

 推進剤が漏れて、危うく爆発を起こしそうになったところもあった。

 それで即応部隊の発進が遅れた。

 国連軍の練度の低さを象徴するかのような事態がそこかしこで引き起こされていた――。

 ――一秒でも早く、実弾を届けてやらないといけないというのにっ!

 すでに俺の苛立ちは怒りへと変化していた。

 ――どきやがれ! 邪魔だっ!

 逃げ惑う衛士をスパナで殴り倒しながら、俺は補給コンテナの搬出作業へと向かった。

 そんな中でもエースが――、エース達だけはBETAと戦っていた。実弾の発射されることのない銃を持って。
 砲撃の支援もほとんどないなか、彼等は戦い続けた。撤退することなく、味方を信じて。実弾が届くのを待ちながら――。
 彼等は次々とBETAに殺されていった。

 俺は換装中に一度だけ叫んでしまったことを憶えている。

 ハンガー内の大型ディスプレイに吹雪が映っていたのだ。
 06ナンバーの吹雪は小僧の機体で、小僧もエース達と同じく模擬弾でBETAと戦っていた。
 あの機動でBETAをかわし、機動のみでBETAの侵攻を抑えていた。
 それがどんなに危険なことか俺にはわかった。
 だから叫んでしまった。叫ばずにいられなかった。

 ――頑張れっ! 頑張れ小僧っ! ――。
















 悲劇は終わらなかった。

 BETA駆除完了の放送が流されたあとも整備班の忙しさは変わらなかった。
 即応部隊に改めて補給し、壊れた機体を修理する。
 作業は山ほど残っていて、今夜も徹夜になることは確実だった。

 そんな折だった。
 神宮司軍曹が死亡したとの情報がはいったのは――。


 翌朝、俺たちは放置されていた戦術機を回収する作業にあたった。
 護衛の戦術機がつくような物々しい警護の中で回収作業は行われた。
 演習場のいたるところに戦術機が倒れていて、小僧の乗った吹雪もそこにあった。
 あの後、小僧はあの場所で戦い続けて機体を失った。
 事件が起きたのはその後らしい。
 撃ち漏らしたBETAが神宮司軍曹を喰ったとのことだった――。小僧の目の前で。


 目の前にある吹雪にはBETAの体液なのか、それとも神宮司軍曹の血であるのかわからないが、ところどころに赤いシミがあって、ここで行われた惨劇を見るものに想像させた。

 俺はタバコに火を点け一息だけ吸い込むとそれを地面においた。
 線香なんていう洒落たものはハンガーには置いていない。
 神宮司軍曹に対する手向けのつもりだった。
 あの人の良い――愛らしい女性はウチの連中に人気があった。
 女性としての魅力もさることながら、整備士連中にまで気を配ってくれることに皆が魅かれていた。
 
 ――すこし抜けてるトコロもあったな……。

 神宮司軍曹と整備班連中と皆で一緒になってビデオを編集していた時のことを思い出した。
 ナレーターを彼女にお願いしたのだが、最初のうちは緊張しているようで、まるで使いものにならなかったのだ。
 その様子が普段と違うものだから、ウチの連中は神宮司軍曹を冷やかしまくっていた。

 ウチの連中も同じ思いなのだろう。
 皆、青褪めていて口を開くものは誰もいなかった。

 敗北感に打ちのめされていた。

 すべてが上手くいくはずだった。XM3の能力を見せつけてやるつもりだった。
 それだけを楽しみに皆は徹夜で頑張ってきたのだ。
 皆で祝杯を挙げたかったのだ。
 だがそれはすべて無駄に終わった。
 皆が沈んでいた。誰もが視線を上げることもなく淡々と作業を続けていた。
 
 機体を持ち上げるクレーンの音がむなしく響いた。
 俺はひとりで現場を離れ、すこし遠くでその様子を監督していた。








 「班長、少しよろしいか? 」

 振り向くと一人の女性衛士がそこにいた。真新しい黒の強化装備。見慣れた顔だが表情は沈鬱だ。

 「……御剣訓練兵、じゃねぇ、――少尉。何の用でしょう? 」

 この女性は誰にたいしても綺麗な言葉を使ってくれる。気品がある。
 ハンガーに置いてある帝国軍貸与の紫の武御雷と、将軍のご尊顔に瓜二つの顔でウチの班の連中は皆、彼女の正体に気が付いていた。
 だがそのことが話題にのぼることは、整備班の中ではなかった。
 そういう噂話を控えさせるだけの雰囲気が彼女にはあった――。

 「班長、ひとつ尋ねたいのだが……、この吹雪はまた使えるようになるであろうか? 」

 吹雪を改めて見直す。その姿はもはや戦術機のものではない。ただの鉄屑だ――。もうコイツは死んでいるんだ。俺はそう言いたかった。

 「……こいつは無理でさ、少尉。使えるパーツを回収して……、あとは廃棄処分ですよ」

 表現を少し優しくしたのは彼女のことを慮ってのこと。それでも意味は同じだった。

 「……そうか。では、忙しいところに申し訳ないのだが……。班長、ひとつ頼まれてはくれないだろうか? 」

 彼女のほうにゆっくり振り向く。

 「実はこの吹雪に搭乗していたタケルは――……、白銀少尉は、すでに別の任務に赴いた」

 ――……!?

 「あの者が戻ってきた折に、私は渡してやりたいのだ……」

 ――……任務に就いた、だと?

 「だから、一部分でいい……。この吹雪のパーツの一部分だけでも譲って頂けぬものだろうか? 」

 あのガキの顔が思い浮かぶ。信じられない機動をして、俺が知るかぎり最高級の技術の持ち主だった。
 ハンガーの中で仲間や整備班の連中に冗談を言うのが好きな奴だった。

 そして――神宮司軍曹によく懐いていた――まだ子供だった。

 何がなんだか理解できなかった。――任務に就いた、だと。頭の中でその言葉を繰り返す。
 ごくり、と唾を飲み込んでしまう。――すでに任務に就いた――?

 「……お嬢ちゃんよ、小僧が任務に就いたってのは本当か? 」

 お嬢ちゃんが頷いた。

 「――今朝、確かめた。任務ですでに出張している、と」

 詳しいことは聞く気になれなかった。聞いたとしてもお嬢ちゃんも答えられないだろう。
 俺の手がける連中はそういう仕事をしている。それにしても……。
 あれだけ懐いていた恩師が目の前で殺されて、何日もまだ経っていないというのに……。
 もう一度、小僧の顔を思い出す。――その顔には年上の女性にたいするほのかな憧れも感じさせ……。

 俺は負けた、と思った。

 小僧は逞しい男だ。
 今は仕事に没頭しないと自分が動けなくなることを知っている。
 時には、感情を凍らせて身体を動かすしかない、というのをわかっているのだ。
 傷がどんなに大きく開いていたとしても、それに目を瞑ることで――。
 傷などないんだ、と自分に言い聞かせることで――。
 己を奮いたたせ前へ進んで行く。
 泣きながら突っ張る小僧の顔が目に浮かぶ。

 「班長、何とかならぬであろうか? 使えるパーツでなくても良い。何でも良いから、あの者に残してやりたいのだ……」

 お嬢ちゃんは必死に俺に訴えていた。お嬢ちゃんも小僧と同じで親を失ったばかりの雛鳥のはずなのだ。
 だから小僧の気持ちが俺以上にわかるのであろう。小僧のために何かしてやりたいのであろう。
 自分のことよりも、あの小僧のことが心配なのだろう。

 ――だったら大人の俺がやってやることは決まっている。

 「あの野郎に伝えとけ。二度と機体を壊すんじゃねぇぞ、ってな。コクピット周りなら記念になるものがあるだろう……。操縦桿でいいか? 」

 「班長――。すまない。班長の協力に感謝する」

 お嬢ちゃんの顔が輝いた。

 「いいって話だ。――しかし、お嬢ちゃんも大変だな? 」
 
 「あの者に比べれば私なぞ……、情けないばかりだ」

 「……いや、そうじゃねぇよ。……鉄砲玉みたいな野郎に惚れると、な……? 」

 「なっ!? 班長! な、何を言っている!? 」

 あまりにもわかり易い反応についつい笑ってしまう。――ようやく笑えた。
 俺は昨日の事件からまったく笑っていなかったことに気づいた。

 「パーツをはずしたらお嬢ちゃんに連絡をいれる。それでいいな? 」

 「……すまない、感謝する。それと……」

 「それと……? 」

 「お嬢ちゃんはやめてくれ。私はもう国連軍の衛士になったのだから」

 彼女は凛々しく、強く、まっすぐな視線で俺にそう言った。

 ――たしかにもう雛鳥じゃねぇな。

 その瞳は遙か彼方を眺望し、若い翼は羽ばたかんとしていた。
 だから俺は姿勢を正し、彼女に敬礼した。

 「失礼しました、御剣少尉どの――」

 班の連中に話してやらねばならない。すっかり落ち込んでいるあの馬鹿野郎どもに――。
 ウチらの代表は新たな戦いをもう、始めているぞ。
 あの小僧に負けていいのか手前ぇら――、と。


 
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