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Muv-Luv SS 脇役 整備班の場合

 「とりあえず、コレ見てくれる?」

 差し出されたディスクを受け取ると俺は、再生機の中に手荒に押し込んだ。
 普段なら美人の訪問には諸手を挙げてお迎えするのだがその日の俺は、ちょっと違った。
 ……すでに遅い時間になっていたし、人数の足りない整備班の俺は連日の残業続きで苛立っていたのだった。


 彼女――香月夕呼副司令――がハンガーに来るのは、とりわけ珍しいことではない。
 なんでも、新造機の保護ビニールカバーを剥がすのがストレス解消になるらしく新造機が搬入される度に、
 俺は司令部に連絡をいれ彼女につき合わされるのだ。
 


 再生された画面には、吹雪が映っていた。僚機のガンカメラで撮影したものであろう。
 正直なところ映りはあまりよくない。
 市街地における戦術機同士の戦闘シミュレーションだ。

 ――ビルの残骸からすると西地区かな……。

 有り体言えば、よくある光景でしかない。
 わざわざこんなものを整備班の俺に見せにくるとは……。まぁお手並み拝見といったところだ……。
 茶でも飲みながら見させて頂きますよ。
 首をコキコキと鳴らしながら画面の前に俺は座った。

 ……一分後、俺は呻いて絶句した。

 ――こいつは……。

 ――きっと……。

 ――……変態だ。
 
 その吹雪の動きは異常としか言えなかった。
 整備班長である俺は戦術機のさまざまな動きを見てきた。
 並の衛士よりは戦術機の機動についても詳しい。
 戦術機の機動を理解できなければ整備などできないのだから必死になって研究していた時があるのだ。
 しかしこの機体の動きは今まで俺が見たことのないものだったのである。
 
 対BETA戦においていわゆる戦車が主力とならず、戦術機がその任をとるのはひとえにその三次元の機動にある。

 例えば突撃級BETAは前面に頑強な装甲殻を持つため、正面からの砲撃はほとんど無意味だ。

 これを攻略するには戦術機の三次元機動――すなわち突撃級を飛び越えその背後から劣化ウラン弾を叩き込む――が必要になる。
 これは戦車にはできない動きである。
 だからこそ戦術機には跳躍するための、そして着陸の際の衝撃緩和のための跳躍ユニットが搭載されているのだ。
 跳躍そして着地、ここまでは衛士なら誰でもできることだ。

 だがこの吹雪の動きはまるで違っていた。――いや、跳躍までは同じだ……だがこいつは空中で反転倒立し、
 なおかつ衝撃軽減のためではなく地表に向けてのフル加速をかましていやがるのだ!

 高位置エネルギーと反転噴射による長刀攻撃など今までやった衛士などいただろうか?

 少なくとも俺には聞いたことも、ましてや見たことなどなかった。

 その他にも、AMBAC(機体の四肢移動による慣性制御)――戦術機による後ろ回し蹴りなどは、整備班暦14年の俺ですらはじめて見る動きだった。

 ――長年、戦術機の機動は見ているが……。

 人間以上の動きができるのが戦術機ではあるが、この動きは忍者とでもいうか、とにかくもはや……
 
 
 「……変態ですね……」

 「そ、変態よねぇ」
 
 俺のつぶやきに、副指令は妙に嬉しそうに言葉を続けた。
 画面から視線を切ることができない。引き込まれていくのを感じる。


 僚機もなんとか付いていこうとしているが、その機動は雲泥の差がある。まるでドン亀にしか見えない。
 ここまで差がつくと、見ていて哀れになってくる。

 ――どこの部隊のエースですか?

 などという馬鹿な質問を副司令にはしない。

 機体には横浜基地のサインがはいっていたし、俺は基地の戦術機はほとんど把握している。
 そうこいつは今日、初めて実機機動した訓練小隊以外ありえないのだ。
 
 ――確か神宮司軍曹のところだよな……。

 頭の中で機体の所属を確認する。
 神宮司軍曹は教導隊に選ばれる程の腕前である。
 戦術機の扱いは横浜基地でも、上位三傑に入るのは間違いない。
 しかしこいつは神宮司軍曹の機体ではない。

 ――というか、軍曹より動きがいいぞ……。

 
 その衝撃的ともいえる動きに魅せられたのか、いつの間にかモニターの前には整備班が集合していた。

 そしてその機動を見る度に、ため息とも喚声とも聞こえる声がハンガーの中に漏れ響くのであった。

 「……それでどう? 整備班から見てこの動きは? 」

 副司令に声をかけられるまで魅入っていた俺はおもわず姿勢を正した。
 あらためて冷静に分析を始めゆっくりと言葉をつむぎはじめる……。
 
 「まず心配なのは各部関節ユニットへのストレスですね……下手すりゃ金属疲労でぽっきりですよ……ショックアブソーバーも固めに設定を変えないと機体がもちませんね」
 
 整備班の後ろから手があがり、バランサーのプログラムも変更しないと対応できませんよ、パニックをおこしてます、という声が聞こえた。
 次の瞬間、整備班全員が勝手に発言しはじめる。
 
 ――動作慣性プログラムも変更の必要が――

 ――機体のねじれ剛性も足りないんじゃないかと……――

 ――コクピット周りも変更しないと、中の人がもたないっすよ――


 皆が興奮しているのがわかった。俺も興奮していた。これで興奮しない奴は技術屋じゃねぇ。
 俺も言いたいことが次から次へと浮かんでくる。
 皆、各々話すものだから、ハンガー内は収拾がつかなくなっていた。
 だから俺はでかい声で、まとめるように俺は叫んだ。

 「とにかく、これ以上のことをさせるつもりならば全面的な改装が必要ですよ」

 そう言い切った俺の言葉を聞くやいなや、副司令はいやらし~く笑った。悪魔の笑みだ。

 「その言葉が聞きたかったのよねぇ。と、いう訳でいまからOS全部書き換えるから整備班は全員残業ね! 班長はとりあえず機体のストレスチェックのやり直しとショック系の整備の指示ををお願いね」

 ――今からですかい……。

 おもわず残業続きの体の悲鳴が直結して表情にでる。
 それを見た彼女――横浜の魔女――は、なお一層嬉しそうに俺に言った。

 「なによぅ。歴史的な出来事になるのよコレは」
 
 正直なところ彼女から下された指令は、残業続きの整備班からすれば厳しいものではある。
 徹夜続きの部下を休ませてやりたい気持ちもある。
 だが、俺もメカニックの端くれ。戦術機の新しい可能性を目の当たりにしてはやらないわけにはいかないのだ。
 全身に力が漲ってくる。
 
 ――この動きが全員できるようになれば――

 拳を握った。

 対BETA戦における戦術機乗りの死亡理由の大半は乱戦に巻き込まれた上での圧死だ。
 包囲され弾切れになって死んでいく奴も多い。BETAの物量の前にどうしようもなく散ってゆくのだ。
 だが、この機動さえできれば……

 ――死に逝く者も減るに違いない――
 
 ……それは整備班としては究極の夢である。

 「――野郎どもっ!気いれて働けよっ!」
 
 俺の掛け声に皆が一斉に返事をする。皆、走って機体に駆け寄って行く。表情が明るい。

 ――まるで新しい玩具を与えられた子供だ――

 もちろん、この俺もだ。自然と頬が緩むのを感じる。
 ただ、俺は一度だけ振り返り副司令に聞いた。
 
 「この変態野郎の名前は? 」


 魔女が笑っている。俺も笑った。

 副司令が言ったその名前を、俺は死ぬまで忘れないであろう。
 
 ――白銀…白銀 武っていうのよ――

 これが後に横浜基地を、そして人類をも救うことになる男の名前を聞いた初めての夜のことである。
 XM3導入の夜であった。

 

 
 
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