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Muv-Luv SS 脇役 伊隅みちるの場合



 2001年11月11日 AM6:20 新潟市

 冬の入り口にたったこの季節では、太陽は未だに顔を出しておらず夜の時間が続いていた。


 「音響センサーにより確認――。大規模BETA群が海底を移動中です。本土上陸まで約10分――」

 ――コマンドポストの涼宮からの無線が私の耳に飛び込んできた。それと同時にヒューっと口笛を吹く音も。
 まったく……、呟いてから通信をいれる。

 「速瀬、ふざけてる場合じゃないぞ。聞いたな、各員。BETA上陸に備えろ」

 「了解――」
 
 隊員たちの声が重なる。同時に機動音がして戦術機のモードが待機から交戦に切り替わった。

 「洋上砲撃は効果なしでしたね。……しかし大尉、副司令はどうやってこれを予測したんでしょう? BETAの行動予測が可能になったのでしょうか? 」

 冷静沈着なはずの宗像の言葉にかすかな戸惑いがあった。
 宗像の疑問はもっともだった。現に副司令の命令を直接受けた私自身が釈然としていないのだから。

 「む~な~か~た~、そんなの考えても意味ないって」

 速瀬が会話に割り込んできた。戦闘前になると、ことさら明るくなるのが彼女の特徴だ。

 ――速瀬に助けられたな。

 頭のなかでそう思いながら私は言った。
 
 「速瀬の言う通りだ。そんな詮のないことを考えるより自分の分担の再確認をしろ。今度の作戦、楽ではないぞ」

 「了解――」

 再び隊員たちの声が重なった。









 副司令に呼び出されたのは数日前のことだった。
 地下19階にある彼女の執務室に訪れたところ、いつものように彼女は片手でコンピューターをいじりながら、反対側の手に受話器を持ち誰かと話していた。

 「……えぇ……。ではそれでお願いします。大丈夫です。中将にとっては悪いことにはなりませんわ……」

 視線で応接セットに座っているように促される。

 どうやら何か難しいことを陳情しているようだった。
 もっとも彼女が何かを強請ってそれが適わないということは滅多にない。常に交渉相手の弱味とエサを準備してから話をはじめる人なのだから。
 

 「ごめ~ん、待たせたわね」

 しばらくして電話を終えた彼女は機嫌よさげに私の前に座った。どうやら彼女の強請りは成功したようだ。

 「まったく、考えたって結論は同じなんだから二つ返事でハイハイ言ってりゃいいものを――」

 思わず吹き出してしまった。交渉相手の気持ちが、わかり過ぎるほどにわかってしまったからだ。

 副司令はほんのわずかの間、私の微笑みの原因を何か考えていたようだったが、すぐに思い至ったようで嫌味な笑顔を浮かべた。

 「と言うわけで新しい作戦よ。これ計画書」

 「何が、と言う訳なんですか? 」

 私もつられて苦笑しながら計画書を受け取った。――きっとまた無理難題な作戦に違いない。



 それは計画書というよりはメモ書きみたいな代物で、ご丁寧に裏には意味不明な公式や図柄が描かれていた。
 資源の有効活用だ。枚数はわずかに三枚。一枚一枚丁寧に捲っていく……。

 「……これ本気なんですよね? 」

 読み終えた私はあまりの内容に、上官に向かって失礼とは承知しつつも言ってしまった。
 
 「本気も本気。マジで本気よ~ 」

 なんだかよくわからない言葉が混じっているし冗談めかしてはいるが、これがけして冗談ではないことは重々理解していた。
 日常生活ではヒドイ悪戯を仕掛けてくる人だが、彼女は冗談でこんな作戦を立案する人ではない。

 「しかし副司令! これではまるで……」

 言葉が続けられなかった。まるで予言書ではないですか――?

 計画書には 
 
 ――11月11日 早朝 新潟沿岸   BETA上陸の際の水際迎撃戦およびBETA捕獲プランについて――

 そう書かれていた。



 「詳しいことはまだ言えないんだけど、間違いなくこの日この場所付近にBETAが上陸してくるのよ。A-01にはその際に帝国軍には秘密に行動してもらい、BETAを何体か捕獲してもらいたいのよ」

 「……」

 信じられなかった。言葉がだせなかった。
 BETAの行動予測ができるようになったとでも言うのだろうか……。
 それにBETA捕獲の作戦は難易度が高い。
 殲滅のほうがよほど楽だろう。
 おまけに日本国内で要請を受けたわけでもないのに国連軍を動かすなんて大問題になりかねない。


 「すでに帝国軍は新潟沿岸の地雷の敷設作業にはいったわ。」

 「副司令の要請を受けたんですか! 」

 「当たり前でしょ? いったい、いくつ貸しを作ってあると思うのよ」

 さも平然と言うが、言っている内容が恐ろしい。
 帝国軍が軍の指揮系統以外からの不確定な情報によってすでに作戦行動を開始してるというのだから。

 「で、さっきの電話は、私たちも動くから見なかったことにしてくれって要請してたわけよ」

 「それも帝国軍は飲んだのですか――! 」

 「あったりまえでしょ~。いっそ協力しろって言おうかと思ったわよ」

 この人って……。
 
 この人って……。


 落ち着くまで十秒ほどの時間が必要だった。……この人は敵に回したらいけない。私は心に固く誓った。


 どんなに怪しげな命令であったとしても、副司令がやると決めたのだ。私に選択権はない。やるからには成功させなければいけない。
 それに準備日数もほとんどない。あと二日か……。
 
 BETA捕獲のための麻酔装備、捕獲模擬訓練。帝国軍とのデータリンクは当然使えないのだから、その下準備もやらなけらばならない。
 やらなければならないことが山積していた。

 「必要なものがあったら何でも言って頂戴。それと伊隅……」

 「はい」

 「作戦はあくまで極秘。すべての準備はかならずピアティフを通して頂戴」

 副司令は真剣な表情だった。そして何か別のことを考えているようだった……。










 「BETA上陸を確認――。地雷原到達まであと……5、4,3……」

 涼宮のカウントダウンが消えるやいなや派手な爆発音が聞こえてきた。まだ薄暗い海岸線に閃光が輝く。

 「うわぁ!ど派手ぇ! た~まや~!」
 
 爆光に皆が気を引かれるなか、まるで花火見物のようなことを速瀬が言った。隊員たちが小さく笑っていた。
 
 実際にそれはなかなかの光景だった。
 我々人類とはまったく違う思考をもつであろうBETAに対し、ここまで有効な待ち伏せが成功したなどという話は私も聞いたことがなかった。
 面白いようにBETAが吹き飛ばされている。おそらくこの大戦果に帝国軍は湧き上がっているだろう。

 ――副司令に借りを返すつもりだったのだろうに……。また借りが増えたのだろうな――。

 私は帝国軍の司令部に半ば同情していた。だが、いずれにしろBETAにダメージを与えているのには間違いない。
 あとのことは人間の都合だ。私が気にしていても何の意味もない。
 
 上陸したBETAは地雷原があるのにもかかわらず、次々とそこに侵入しその度に吹き飛ばされていた。
 戦車級や突撃級がポップコーンのように打ち上げられていくさまに私はなかばあきれていた。
 それでもBETAは、まるでそうするほかないように突進を続けていた。

 ――やはり知能は低いのか? 

 いつ終わるかの予想すらできないレミングの死の行進を見つめながら、私はそう考えていた。


 「BETA先頭が地雷原を抜けます――。帝国軍砲架部隊による曲射砲撃が始まります」

 再度、涼宮からの戦況報告が入る。海岸線は砂浜から丘陵へ、そして平野へとなり内陸につながっている。新潟沿岸はそういう地形だ。
 人間同士の戦争であれば丘陵地帯に防衛線を築き、高所からの砲撃が有効となるのであろうがBETAが相手では少し勝手が違った。
 高所では佐渡島からの光線級の攻撃が届いてしまうのだ。
 よって帝国軍は丘陵地帯を佐渡島からの攻撃の盾として利用していた。
 

 直線攻撃しかできないレーザーと曲線をも描ける実体弾の違いをうまく使っていた。
 帝国軍は地雷原の隙間から漏れ出てきたBETAを虱潰しのように攻撃していた。

 「かなり有効な攻撃のようですね。七割がたは叩いてます――」

 風間の言葉のなかにも戸惑いがあった。
 いうまでもなくBETAのもっとも恐れるべき点は、その物量だ。圧倒的多数をもって突進し蹂躙していく。
 何人もの兵士が、何台もの車両がそれに踏み潰されてきた。
 罠には何の意味もなく、陣はいつも破られてきた。
 
 ようは常に人類の負け戦なのだ。

 ――しかしそれをこうもあっさりと……。

 上陸地点、日時、これがわかるのは大きい。
 適切な準備ができれば守ることだけならばできるのではないか――? 
 私には、そんなふうに思えるのだ。

 「さっすがは副司令様ってトコですねっ! 大尉! 楽勝~楽勝~! 」
 
 ひときわ明るい声が聞こえてきた。

 速瀬は素直に興奮を隠さない。
 何か裏があるんじゃないか? とか、そんなに上手くいっていいのか? と考えてしまう自分とは違う。
 正直なところ、それが羨ましくもあった。

 
 「BETA丘陵地帯突破――。平野部への侵入確認。帝国軍戦術機部隊展開します」

 涼宮の声に緊張が強くなった。

 「全員、聞いたな。作戦を開始する――」

 この後、戦術機が戦線を支えるなか、帝国軍砲架部隊は防衛線を下げる。
 そしてあらたな陣を作りそこにまたBETAを誘い込む。
 これが帝国軍のとる作戦――機動従深陣だ。
 そして私たちA-01部隊はそのドサクサに紛れてBETA捕獲作戦にとりかかった。


 「本作戦は高度な技術と連携が必要だ。各員集中してあたれ!」

 「了解――! 」
 
 いつも以上に気合の乗った声だった。












  
 

 ――二名の死亡と一名が病院送り……。

 副司令の執務室で私はしばしの間、瞑目していた。BETA捕獲作戦から二週間近く経過していたが、この部屋に来るとやはり思いだしてしまう。

 ――難しい作戦だった。それでももっと上手くやれたはずだ――。

 もう少し練度が上がっていれば――。もう少し模擬訓練の時間があれば……。

 しかし現実として死んだ者は蘇らない。
 だからこそ死なずに目標が達成できるよう訓練するしかないのだ。
 ここ最近になって速瀬の新人たちに対する特訓も厳しさを増していた。築地少尉や涼宮 茜少尉などは虫の息の様子だった。
 それでも死なせたくないから。死にたくないから特訓を続ける。
 1%でも生存率を上げるために。作戦を成功させるために。

 「おまたせ~」

 副司令がひらひらと手を振りながらあらわれた。先ほどまで、またコンピューターをいじっていたのだ。
 手には一枚のディスクを持っている。

 「はい。これプレゼント」

 「何でしょうか? 」
 
 ディスクを受け取った私に副司令は続いて壁面モニターのコントローラーを差し出してきた。
 ディスクを再生しろ、と促される――。
 
 「本当は本物を見てもらうのが一番なんだけどねぇ~」

 副司令の得意な、何かを企んだ笑顔。

 再生ボタンを押した。

 再生された画面には、練習機――吹雪が映っていた。僚機のガンカメラで撮影したものであろう。
 正直なところ映りはあまりよくない。
 市街地における戦術機同士の戦闘シミュレーションだ。

 ――ビルの残骸からすると西地区演習場かな……。

 そこならよく知っている。私たちもよく演習で使うのだ。
 まぁ、まずはお手並み拝見といったところか……。


 一分後、私は呻いて絶叫した。

 「副司令!何者ですかっ?何者なんですかコイツはっ! 」

 「訓練兵よ。まりもが手塩にかけて育ててるわ」

 「嘘だっ! 」

 「本当よ」

 「嘘ですっ! 」

 「本当だって」

 私の剣幕に副司令が圧倒されている。アドレナリンの大量分泌! もう止まらない止められない!
 頑張れアタシ! もう少しで真実を吐くに違いない! 吐かせるんだっ! 新人なんてありえない!
 鼻息が荒くなる。
 興奮が抑えきれない。
 戦術機でこんな動きができるなんて……!こんな動きができれば……!
 ……死なずに……! 死なずにっ!

 「……わかった! わかったからそれ以上、顔を近づけない」

 副司令が降参してきた。

 「実はね、……アンタのため戦術機の新しいOSを作ったのよ」

 「えっ……? 」

 「とりあえず、まりものところで試験運用している段階なんだけどね――」

 「……」

 「A-01にも実験に協力してもらうわ」

 「……」

 「……どうしたの? 」


 「ありがとうございますぅぅぅぅぅぅ!!!!!! 」

 腹の底から声がでた。頭の天辺まで抜けていった。まるで何かが浄化されるようだった。気持ちが良かった。


 その後、私と副司令はしばらく会話を続けた。忙しい副司令が時間をさいてくれたことに感謝したい。

 ――興奮すると怖いわねぇ……。副司令のその言葉は聞かなかったことにしたい。

 当然ながらというか、このOSは私のために作られたわけではない。この新人訓練兵のリクエストに答えて副司令が作ったという。
 その仕様話を聞いているだけで喜びがこみ上げてくる。

 「……ということは先に入力しておけば、機体の硬化時間を省略できるわけですねっ――! 」

 「その通りよ。……しかしアンタ、興奮するとそこまで変わるのねぇ」

 「何とでも言ってくださいっ。次に……」

 はいはい、わかったわかった……。副司令は苦笑していた。
 はしたないのはわかっていたが、感情は隠さないほうが楽だ、というのは正樹から教わって私は知っていた。
 

 「ところで伊隅……」

 「はいっ! 」

 「もうすぐこいつらはアンタのところに配属されるからね」

 当然である。神宮司軍曹に鍛えられた者は我々のチームであり家族だ。

 「だからこいつより上手くなってないとマズイわよ」

 「え? 」

 いやらしく笑う副司令の前で硬直した。

 「上官が新人より下手ってのはマズイわよねぇ」

 「そ、そうでありますか? 」

 カエルになった気分だった。

 「それまで特訓して舐められないようになさい」

 「はっ! 了解であります! 」

 反射的に敬礼してしまった。


 おそらくいま以上の特訓を重ねないといけない。
 肉体的にはキツイだろう。でも精神はどうだ?
 ここしばらく隊員の死に引きずられてしまっていた心は……。
 もちろん、彼女たちのことを忘れるわけではない。
 ……それでも。
 それでもこれは確かにプレゼントだった。我々が立ち直るための……。
 早く全員に見せてやりたい。このディスクを見せてやりたかった。
 速瀬は喜ぶだろう。宗像は驚くだろう。茜は嫉妬するだろう。


 それにしても……。
  
 「すみません、副司令! 」

 ついつい声に力がこもる。

 「なに? 」

 「06吹雪の搭乗者の姓名をお伺いしてよろしいでしょうか――? 」

 あぁ……。彼女は言った。まだ言ってなかったっけ?

 ――白銀、白銀 武って言うのよ。

 これが私――伊隅みちる――が、彼の名前を初めて聞いた瞬間だった。
 
  



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