適当ブログ

趣味

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |

Muv-Luv  SS5脇役 速瀬水月の場合

  2001年 12月8日  横浜基地




 西地区の第三演習場には他所と違う施設がある。
 そこには4キロ強の長さを持つレールが真っ直ぐに敷設されていて、その上を戦術機よりも巨大な物体が高速で移動している。
 初めてこれを見たとき、私は吹き出してしまった。
――そのいかにも子供だましのような施設にも。そしてクソ真面目にそれで練習を繰り返す先任たちにも――。

 でもその後、実戦経験を重ねた私にはわかる。あれは確かに必要なものだ。動きに慣れるためには最適のオモチャだった、と――。





 「水月、なんのビデオを見てるの?」

 部屋に入ってきた遙は、――うんしょ、と言いながら私の横に腰掛けた。遙は時々ひどくオバさん臭い。

 「これ? 整備班の班長に借りてきたのよ。今度のトライアルの時に衛士に見せるビデオ教材だって――」

 投げやりに答える。本当は持ち出し厳禁と書いてあったのを脅して持ってきたのだ。

 「へー。何だか面白そうだね? ……西地区の三番の演習場かな? 」

 特徴のある施設に気が付いたのであろう。遙が言ったのは正解だった。
 私はモニターを見つめながら頷いた。このビデオを再生してからすでに20分程経過していたが、時間の経過とともに私の苛立ちは増大し続けていた。

 「あれ……ひょっとして、これって神宮司軍曹の声? 」

 黙って頷く。

 神宮司軍曹と整備班によって急遽、製作されたというこの教材は、のん気なBGMとあいまってやけに安っぽくそれがまた私の癇にさわるのだ。

『…………それでは次に対突撃級用攻撃実践課程2の……――……従来型のOS使用機の場合です――』

 あきらかに余所行きの声で神宮司軍曹が解説をしている――。

 モニターには戦術機が映っている。よく見ると足元にはレールがあることに気づくだろう。そして奇妙で巨大なオブジェクトがそのレールの先にあることも。
 ――ただ、そのオブジェクトの背中にあたる部分にセンサー式標的が設置されていることに、初めて見ては気づく者はいないだろうと思う。


 やがてレールの上を巨大なオブジェクトが加速し、高速で走りながら戦術機に向かって突進してきた。
 戦術機はそれを跳躍してかわし、そしてその背後に着地し反転する。それからオブジェクトの背中についているセンサー式標的に向かって狙撃した。
 何のことはない――。衛士の基本技術のひとつである突撃級の背後をとる技術の練習である。

 突撃級BETA――。それは奴らの侵攻時に常に先陣を務めるクラスでその最高速度は時速170キロにも及ぶ。
 戦術機よりも大きい奴らが群れで突進してくるさまは壮観で、気の弱い人間ならばそれだけでも失神しかねない――。

 それに慣れるために国連軍がその英知の全てを結集して造ったのが、この西地区第三演習場の設備。
 通称――電車道である。
 高速で突っ込んでくるBETAをかわし背後をとり射撃する。その練習用に造られた施設だが、傍目には戦術機でハードル競争の練習をしているようにも見える。
 前面は衝撃緩衝材で造られているものの跳躍のタイミングを間違え激突してしまえば、戦術機はおろか衛士にも生命の危険がある代物だが――。
 ……初めて見た私が吹き出してしまったのも無理はない、と思う。

 『……次にXM3搭載機の場合です。パターン1、再装填の……――』

 演習場に戦術機が立つ。吹雪だ。部隊マークでそれが207訓練小隊であることが見てとれる。

 「――……けっ!」
 
 私が吐き捨てる。横で遙が――もう! はしたないぞぉ水月! という顔でこちらを見ていた。軽く無視する。

 オブジェクトが同じように突っ込んでくる。吹雪は跳躍してかわし――。空中にいる間に反転し標的を狙撃した。従来型OSより圧倒的に攻撃開始が早い。
 おまけに着地したときには弾倉の再装填まで終わっていて、次の敵が出現しても万事抜かりない状態だ――。
 これが新型OSの威力である――。初めて見た衛士なら、旧来型との違いに目を丸くするだろう。

 「……うーん、確かにすごいけど……でも水月ならもっと速くできるよね? 」

 あったりまえでしょ!? と叫びたいのを必死でこらえる。遙には罪はないし、何よりも腹がたつのはこれからなのだ。

 「……これからなのよ、遙……」

 『……次に特別応用編です――』

 ………出やがったな、この変態野郎……。

 神宮司軍曹の声があいつの出現を告げていた――。

 その吹雪は最初から違っていた。
 オブジェクトの加速が始まるとともに吹雪も強速前進を始める。相対速度は300キロを超えたんじゃないかと思う。
 そしてオブジェクトとぶつかる直前に空中に飛び込み前転のような動きを見せる――。すごく低い。オブジェクトの頭に触れてしまうくらいに低く飛んでいる。
 前方一回転で着地した吹雪はさらに前方に向かい突撃砲を構え、警戒姿勢をとっており――。
 すれ違いざまに発射されていた弾丸は標的の中心に見事に命中していた。

 「……すごいっ……! いつ撃ったかわからなかったよ」

 遙が目を見張っていた。
 
 「……空中での飛び込み前転の途中、頭が下になったときに撃ったんだよ。」

 それはもう操縦技術というよりアクロバットの世界のように見えた――。
 習ってできるものじゃない。頭のネジが2~3本抜けてないとできない所業だ。

 「……そっか。こんなの見せつけられたら不機嫌にもなるよね……。でも、頑張ろうよ! ファイトだよ、水月! 」
 
 遙は私が不機嫌な理由に思い至ったようだった。なんとか私の闘争心を煽ることで私の気をなだめようとする。
 でもそれは無駄だった。このことも苛立ちの原因のひとつだが、それ以外にも原因がありどちらかといえば私はそのことに腹を立てていた。

 「……遙、あのね、私はコイツが技術的に難しいことを、私を差し置いて成功させていることに腹を立ててるわけじゃないんだ」

 「……え? じゃあ……? 」
 
 組んでいた腕を解き、リモコンを使い巻き戻す。再び奴が映ったところから再生し、話しを続ける。

 「まぁ確かにそれも多少はあるんだけど……。――こいつと同じ発想を持てなかった自分に腹が立つんだよね」

 空中前転しているところで一時停止する。

 「遙、本当はこんな派手な……ギリギリの技なんかやる必要ないんじゃないか? って思ってない? 」

 「……あ……、うん。……実はそう思ってた」

 「だよね。確実で安全なのが本来の正しいやり方だし、私もビデオの最初のほうを見てる時はそう思ってた」

 コマ送りで再生する。逆さになったままオブジェクトの背後をとった吹雪が引き金を引く。

 「――でもね、なんでこいつがこうしたかわかる? 」
 
 遙はフルフルと首を横に振った。わかるはずがない――。遙には戦術機機動の経験はないし、よほど訓練された衛士でなければ想像もしないだろう。

 「……こいつはね、できるだけ低く飛ぶためにそうしてんだ」

 「……」

 「低く飛ぶということはレーザー級からの攻撃を防ぐことにもなるし、なおかつ標的に向かって上方からではなく、水平に近い射角がとれる。それに――」

 「……」

 「……ハイブの中では高度がとれない。……つまり、この変態野郎はハイブ内戦闘のことまで、すでに考えているんだ……」

 それが口惜しかった。
 伊隅大尉からこの新OSの素性はとっくの昔に聞いていたし、この変態がそれに携わっていることも聞いていた。
 その性能はありがたかったし、これを開発してくれたのは感謝している。
 これがなかったらクーデター鎮圧のとき部隊にさらなる損害がでていたのは確実だ。
 でも実際に運用させるのは――、実戦を経験している自分のほうが上だと思っていた。
 それなのにXM3を使えばここまでできる、という発想で完全に負けていた。自分にはこんな機動は思いつきもしなかった。
 ――ハイブ内での有効機動などは本来は自分が教えてやらねばならないハズなのだ。

 「……遙。おまけにね、戦術機の基本って二機編成だよね。突撃級相手の時は一機が攻撃、もう一機が警戒」

 遙が黙って頷く。

 「でも僚機を失った時には、当然独りで攻撃も警戒もしなければならない。……こいつはね、多分そこまで考えている」

 攻防一体となった先ほどの機動が思い出される。
 かわすと同時に攻撃。着地と同時に前方警戒。自分の機動がひどくやぼったく思える。
 神宮司軍曹が好き勝手にやらせているのはその辺りを見越してのことだろう。練習の段階で常にそこまで考えなければ実戦ではできない。
 こいつの発想力には正直なところ驚きを隠せない。
 
 「……凄い衛士なんだね」

 「……むかつくけどね」
 
 嫉妬心を隠せない。それを認めるのは口惜しいが――私とはモノが違う。

 「……でも、皆がコレと同じことができたら凄いよね」

 ……そうだね、と頷く。遙の言うことはもっともだ。これができれば中隊の戦力は倍以上に跳ね上がるはずだ――。これを全員ができれば……。

 「皆が、できるようになったら戦術機のサーカス団が作れるね」

 遙が突拍子もないことを言った。

 「……は……!? は、遙、アンタなに言ってんの!? 」

 「え……? 無理かな? ほら、こう、ぴょーんって」

 遙が両手を高く突き上げる。……とたんにライオンのようなタテガミをつけた不知火が、火の輪くぐりをしている姿が想像できて私は爆笑した。

 「あっははははは、あは、あはっ、おかしぃ! 遙、おかしすぎるぅ! 」

 「……むぅ~、水月、笑いすぎ! 」

 ――ごめん、ごめん! 口を尖らせてぶつぶつと文句を言う遙に頭を下げる。

 「……でも、新たな遙伝説誕生だよね」

 私がそう言って笑うと遙は、茜には絶対言っちゃ駄目だからね! と釘を刺してきた。
 ハイハイ――、とは言ってやったものの何日我慢できるかはわからない。きっとたいして日数もたたないうちに漏らしてしまうだろう――。
 遙の伝説をお互いに集めあっては、面白おかしく話しあった男の顔が一瞬浮かんで消える。
 やっぱり遙はいい奴だな――。いつもあっという間に私の気持ちを切り替えてくれる。
 
 「……そういえば水月、そろそろ準備の時間だよ?」

 あぁ――もう、そんな時間か、時計を確認し立ち上がる。――今日は大事なイベントを控えているのだ。

 「行こ、遙。先にハンガーよってコレ返すの付き合って」
 
 「――うん」
 
 さて、と気合をいれて指をポキポキと鳴らす。

 「もう、水月、気合いの入れすぎだよ。新人さんたちが配属されるのは明後日のトライアルの後だよ! 」

 「いいのいいの! 今から気合いを入れて待っていてやるのも先任の務めってものよ! 」

 ――待ってろよ――、この変態野郎。私がビシバシしごいてやるからね!

 ……そして全員であの機動をして。

 BETAどもを滅ぼしてやる。

 妙な気合が私の中に充満していくのが自分でわかった。
 
 横を歩く遙に視線をやる。
 遙はまるで気付かずに何やら楽しげな表情で廊下の先を見ていた。

 以前と比べ、格段に明るい表情を見せるようになっている――。

 ――あたしたちは元気だよ……。
 
 頭の中で再び話しかけた。
 当然ながら誰からも返事はない。

 でも今はそれで良かった。
 返事がなくても耐えられるくらいには私たちは強くなっている。

 ――ちゃんと見守ってなさいよ……!

 付け足すようにもう一度、呼びかけてみた。

 遙との決着をつけるんだから……、そこで口惜しがってなさいな――。
 




 
スポンサーサイト

SS | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<Muv-Luv SS脇役 イルマ・テスレフの場合 | HOME | Muv-Luv  SS6脇役 神宮司まりもの場合>>

この記事のコメント

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。