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Muv-Luv  SS6脇役 神宮司まりもの場合

 12月7日  横浜基地



 忙しい。目の回るような忙しさというのは、今みたいな時のことを表す。私は身をもって実感していた。

 戦闘後の興奮もあってか身体はまだ無理をきいてくれているが、すでに24時間以上まともに睡眠をとってはいない状態だった。
 クーデターを鎮圧し、横浜基地に帰還する。煌武院 悠陽殿下の出立を見送った後、任務反省会を開き、戦闘報告書など書いたことのない訓練小隊に書式を伝える。
 書かれたその内容を確認し精査したうえで司令本部に提出する。
 それが片付いて自分のデスクに戻り、ようやく一息つくことができるかと思った矢先に呼び出しをくらったのだ。

 香月 夕呼――この基地の副司令に。

 夕呼――副司令に私が呼び出されることは珍しいことではないが、実はその内容は二通りに分かれる。
 ひとつには夕呼の友人として――おもに夕呼の気分転換の手伝いとして。
 もうひとつはもちろんオルタネイティブ4――。私の場合は実動部隊であるA-01部隊につながる訓練小隊の件について。

 クーデターの鎮圧が終わったばかりのこのタイミングで、夕呼が茶飲み話をするために私を呼ぶとは考えられない。
 だから間違いなく訓練小隊のことについてだろう。そしていま呼ばれるということは……。
 思い当たる節がひとつだけあって不安だった。――そして結局、悪い予感というものは必ず当たるものなのだ。





 「……総戦技演習をクリアして戦術機で実戦を経験して、なおかつ帝国軍の精鋭と見事に渡り合っているのよ? 」

 ――なんでそんな連中を訓練兵なんかにしておかなきゃいけないのよ? 夕呼が怒るようにして視線でそう投げかけてきた。

 「夕呼、いえ、香月副司令! 無茶ですっ……! 彼等は戦術機演習の後期三ヶ月分の日程をまるまる残しております……! 」

 案の定、夕呼の話とは訓練兵の衛士への昇任のことだった。近日中に解隊式を行い、それをもって207訓練小隊をA-01部隊に補充すると。

 「じゃあまりも、ひとつ聞くけど――、それを消化したら、誰もが帝国軍の包囲を突破して将軍救出なんて荒事ができるようになるの? 」

 それはそうとは言えない。確かにそれを彼等は現時点でやり遂げている。しかし認めるわけにはいかない――。だから私には返事をすることができなかった。
 
 「……まりも。……ひょっとしてあんた、あの子たちに妙な情けをかけてない? 」

 「……」

 情けなどはかけていない。
 ただ、どう考えても無理なのだ。
 207訓練小隊のほとんどが今回の事件の関係者であって、彼等の負った心の傷などを考慮すれば、いま衛士にすることは最善の手段であるとは言えない。
 もう少し――あとわずかでもいい。彼等には時間が必要なのだ。
 もちろん夕呼の言い分もわかる。訓練小隊の技術は水準をはるかに超えていて、おまけにA-01部隊は常に人手不足だ。
 それでも私には納得することができなかった。
 なぜなら207訓練小隊の成長はあまりに急激すぎて――そのぶん、脆いように私には思えるのだ。

 私と夕呼の話は平行線を辿り、合意には達しないまま時間切れとなった。

 デスクに帰った私にピアティフ中尉から内線が回ってきた。
 命令が伝達される。
 帝国軍とのクーデター事件の現場検証に訓練小隊を連れて立ち会うこと。
 また白銀訓練兵はそれが終わり次第、香月副司令のもとに出頭させること。
 神宮司軍曹は訓練兵の任官のための書類を提出すること――。

 なんのことはない。結局のところ夕呼には逆らえないのだ。









 現地までは軍用特殊車両で向かった。時節柄、国連軍の戦術機が街中を闊歩するのはためらわれるし、今は少しでも訓練兵たちに休息を与えてやりたかった。
 父親を失った榊。父親が一連の事件にかかわっているとされた鎧衣。その二人を除いた207訓練小隊が車中にいた。

 道中は休んでいてかまわない。そう伝えてはいたが、御剣が白銀の戦術機のデータを見たい――と申し立てしてきたので私はそれを許可した。
 特殊車両の装備品の小さな画面には、白銀機が4機の不知火に追いかけられている様子を映していた。
 白銀の戦術機操作は素晴らしい。少なくとも私の知る限りでは彼に並ぶ者はいない。長ずれば随一の使い手になるのは間違いないと思えた。
 反面、それが恐ろしい。
 彼は勇敢だ。それがゆえに自分の許容範囲以上に頑張ろうとしてしまう危うさがあると私は感じていた。
 白銀が仲間に対し技術の解説をしていた。

 「だからさ、山岳地帯の最大の問題は足場なんだよ。かならずしも水平じゃないだろ? 」

 「ふむ――、確かにな」

 「場合によっては、左の主脚と右の主脚との着地地点の高低差が何メートルになる場合もあわけだろ?」

 白銀が身振りを交え御剣たちに説明するのはそう珍しい話ではない。それになかなかいいところに目をつけている。
 たしかに整地された市街地での演習では掴み難い感覚なのだ。私も黙って白銀の話に耳を傾けていた。

 「そうなるとバランスが崩れて次の出足が遅れるし、下手したら機体ごと転倒しちまう可能性はあるわけだ。」

 ――その通りだ白銀。だから腕の立つ衛士であれば与えられた情報から地形を予測し跳躍する前に着地地点を決めておくものだ。

 「……でも実際に着地に都合のいい場所探している時間は、通常移動中ならともかく戦闘中にはないだろ? 」

 ――……まぁそれもそうだが……。

 「だからその場合、無理に平地を捜し自分の機体を水平にするのではなく、斜面に対して垂直――つまり斜面と同じ角度に機体を倒して両足で接地するんだ」

 ――……何だと……?

 「……斜面に対して機体が直角になるように――? 」

 ――……彩峰の疑問はもっとものことだ。教本にもできるだけ平坦な地形を選び着地せよ、となっている。
 それに対して白銀は、斜めの地形なら斜めに立てとでも言うのだろうか?

 「その通りだ――、別に俺たちはその斜面にいつまでも立っていたいわけじゃない。ようは両主脚で地面を蹴って飛びたいわけだろ?」

 ――……確かにそのやり方なら跳躍ユニットと両主脚の能力を十全に生かすことができるかもしれない。出力の劣る吹雪でも不知火を振り切れるわけだ。

 「なるほど……。そなたはそうやって、あの追っ手をかわしていたのか……どおりで揺れるわけだ」

 「……一秒か二秒なら斜めになってもかまわない。倒れる前に跳べばいい 」

 「なるほどねー。すごいね、たけるさん」

 これだ。白銀は私たちとは違う。――そう、なんと言うか、彼には自分自身で教科書を作りあげているようなところがある。

 「あとは進行方向を見定めたら、足元ばかり見ないで、できるだけ遠くまで見ておくことかな?……ほら、マリオとかもそうじゃん? 近くしか見てないとかえって穴に落ちてしまうだろ? 」

 「ふむ――。なるほど……と言いたいところだが、ときにタケル、まりお とは何のことだ? 」

 「……白銀語」

 「えへへー。なんだろうねー? 」

 「……っと。すまん。忘れてくれ」

 白銀の戦術機機動の説明には意味不明の言葉が頻出する。先日も「飛び込み前転後方狙撃」なる技を めとろ、いど とか言っていた。
 地下鉄と井戸とは何を意味するのだろうか? 地下に生息するダンゴ虫のように丸まれ、とでも言うのだろうか? 彼の言語感覚については疑問はつきない。

 それにしても……。車内には穏やかな空気が漂っていた。
 無理はしているのだろう。でもそれを見せることは彼等はしなかった。
 仲間たちと交わす何気ない会話。その言葉の中に感じる思い。訓練小隊の連中は何とかいつもの自分たちに戻ろうとしていた――。
 だがそれが、かえって痛々しい。彼等にはまだまだ時間が必要なのだ。
 傷口をゆっくりと塞いでいく時間が――。
 
 そしてそれが出来た時、部隊のほとんどが事件の関係者で占められるという悲惨な事件は、ようやく本当の意味での幕を迎えるのだろう。













 12月8日  横浜基地


 司令本部に提出する訓練兵の報告書が書きあがったのはすでに夕刻を迎えていた。
 通常であればこのような書類は訓練期間終盤に指導教官が作成し、それを司令本部に提出する。
 司令本部が内容を吟味したうえで配属を決め、配属先の上官に送り、それを持って上官は部隊構成などの資料として参考にする――。
 これが一連の流れになるのだが、207訓練小隊に関しては少し違う。
 最初からA-01部隊用に育成されているため報告書は司令本部と配属先の上官――、この場合はA-01部隊の隊長である伊隅大尉の所に直接引き渡されることになっていた。
 訓練兵たちには明日が解隊式だとは、まだ伝えてはいなかった。別に驚かせたいわけではない。いま伝えても、素直に祝ってやれる自信がなかったのだ。

 ピアティフ中尉に連絡をいれ、伊隅大尉との面談の時間をセッティングして頂く。
 伊隅大尉から指定されたのは2100時に地下七階の第二会議室とのことだった。
 ずいぶんと遅い時間にはなるが、A-01部隊の多忙さを考えればそれも無理のないことのように思えた。



 地下七階の第二会議室に入るのは初めてだった。狭い部屋でテーブルがひとつに椅子が四つ。空きスペースを無理やり会議室にした、といったところか。
 伊隅の他にピアティフ中尉がいて、彼女が書類上の手続きをしてくれるとのことだった。
 久しぶりに会う伊隅は少し痩せているように見えた。挨拶の際に浮かべられた笑顔もどことなく寂しげだ。

 ――無理もない……。

 今回のクーデター事件でA-01部隊は一名の戦死者をだしたという。先月のBETA新潟上陸の際には二名が死亡し一名が病院送りになった。
 部隊の任務は常に過酷を極める。伊隅の顔に浮かぶ疲れが、隠しきれなくとも仕方のないことのように思えた。
 私もかつての教え子たちの姿を思い出し、心の中でその死を悼んだ。

 机の上に報告書をひろげ、申し送りを始める。

 「まず榊 千鶴訓練兵ですが――」

 榊の能力値を数字化しそれをグラフにしたもの。そして身上書に私のつけた備考――。榊 千鶴という人間の説明を始める。
 すでに司令本部から報告書のコピーを受け取っている伊隅は、それらを手に取りながら様々な質問を私にしてくる。

 「……先日亡くなった榊 首相のご令嬢。……真面目で優秀。少しお堅いところに難あり、てところか? 」

 「その通りです。大尉? どうなされました?」

  伊隅がなぜか微笑していたので、私は質問した。

 「……いや。よく似ているな、と思ってな」

 「大尉にですか……? 」

 伊隅が驚いた顔をした。それからゆっくりと笑顔を作ると――いや、軍曹にだ、と言った。

 「大尉にそう言われるのは心外です――」

 訓練兵時代の伊隅の堅苦しさを思い出し、そう反撃した。
 お互いにくすり、と笑いあう。伊隅と私は確かに似ているところがある。

 榊は明日の解隊式にあわせるように基地に戻ってくる――。彼女は大丈夫であろうか?
 彼女が父親との間に問題を抱えていたのは知っていた。それを解消できぬまま相手をなくす。それは心残りではないだろうか?

 「軍曹、この御剣訓練兵のことだが……? 」

 伊隅がそう切り出してきた時、まだ榊のことを考えていた私は少しばかりうろたえてしまった。
 幸いにも書類に目を落としていた伊隅は気が付かなかったようだ。
 御剣も複雑な問題を抱えていた。どうやら伊隅も兵士としての能力より、そちらを気にしているようだった。

 「……ですから今回、帝国のほうから御剣訓練兵の任官を認めて欲しいとの要請があったと聞いております」

 「……それは、戦死しても構わないということと解釈するが……? 」

 黙って頷く。御剣は影武者としての役割を果たした。だからこの要請は、あの一族の呪縛から御剣を解き放つために、彼女の姉自らが要請したのであろう。
 影ではなく己の選んだ道を自分の足で歩んで欲しい――。
 わずかな時間であったが、殿下と行動をともにした身には、痛いほどその思いが理解できた。
 
 
 

 「鎧衣というのはタフみたいだな……。速瀬の良いオモチャになりそうだ」
 
 伊隅が鎧衣の身上書に目を通していた。私は鎧衣の父親が帝国情報省の人間であったことを説明し、最近まで鎧衣自身も知らなかったことを付け加えた。
 ……鎧衣は解隊式に間に合うだろうか? 憲兵からの連絡はないが、きっともう夕呼が手を回しているはずだ――。
 任官はまだ早いと思う私がいる反面、そういったことには抜かりのない夕呼を頼もしく思う自分がいるのが不思議だった。

 「まったく――。首相の娘に将軍の妹。おまけに帝国のスパイの娘とくるか!? 」
 
 やれやれ、と伊隅があきれたようにため息をつく。

 「……まだあります。彩峰は戦争犯罪人 彩峰中将の娘。珠瀬は国連事務次官の娘です」

 伊隅が口をあけて呆けていた。やがて両手を挙げて降参です、と笑った。

 私は彩峰の格闘戦術が小隊でもずば抜けていることと、珠瀬の狙撃能力は数字上ではあるが極東一であることを伝えた。

 「……しかし、ウチにくる面子はいつでも化け物揃いだが、今回はまた格別だな――」

 伊隅が言うことはもっともだ。A-01部隊につながる私の訓練小隊に入る者は基本的にすべて夕呼によって選抜される。
 彼女がどういった基準でそれを決めているかはわからないが、いずれも逸材であるのは間違いない。
 現に速瀬や茜などは世が世ならオリンピックに出場してもおかしくないほどの運動能力の持ち主だった。

 「……それで最後が軍曹の秘蔵っ子ですか? 」

 伊隅が待ってましたとばかりに白銀の報告書を広げる。楽しげに報告書を読み上げる。

 「……座学A 個人格闘力A 射撃A 戦術機操縦技能A……」

 「訓練兵の戦術機操縦技能はAまでとなっていますのでそう記載しましたが、実際はそれ以上と判断しています」

 「……おまけにXM3の開発者、か」

 能力的には申し分ない。言うまでもなく最高の人材である。

 「……」

 「軍曹、良い兵士たちを錬成してくれた――。感謝する。」

 伊隅はそう言って笑った。だが私には伊隅に微笑み返すことはできなかった。

 ――不安なのだ。

 白銀が、ではなく夕呼の言葉が――だ。
 白銀と初めて出会った日――。夕呼は私にこう言ったのだ。

 「……とりあえずは使い物にはなると思うから徹底的に鍛え上げて頂戴――。……最終的には家族や恋人を自分の手で殺せるくらいに」

 夕呼はキツイ冗談を言う。厳しい言葉も使う。でも長い付き合いのなかで私は彼女の言葉がどちらなのか自然とわかるようになっていた。
 そして今回の場合は――。
 冗談ではないと思っていた。
 そう思って彼を鍛えてきた。特別だと思って育てたのだ。
 他の連中もそうだ。
 やむにやまれぬ事情を持って集まったのがいまの訓練小隊なのだ。

 そして今、訓練期間は終わりを告げた。
 だから彼等にはこれからきっと、そのくらいの厳しい現実が待っているのだ。

 私はそれが――怖かった。

 私が返事をしないのを不審に思ったのであろう。伊隅が私の顔を覗き込んでいた。

 「どうした? 軍曹……。体調でも崩しているのか? 」

 「いえ……。なんでもありません。失礼しました」

 返事をした瞬間、私は泣き出しそうになっていた自分に気が付いた。
 ピアティフ中尉が驚いた顔をしている。
 伊隅は私を元気付けようと思ったのであろうか、優しく私に微笑んでいた。
 よく見れば伊隅の目の下にはクマができていて、それを化粧で誤魔化しているのがわかった。
 A-01部隊の任務は過酷なのだ。常に死を伴うものなのだ。
 
 私は教育者になりたかった。
 そのために――戦争を終わらせるために軍に志願したのだ。
 けして教え子を戦場に送るために教官になったわけではない。
 そのことが私には口惜しかった。

 「軍曹、安心してくれ」
 
 伊隅がそう言って私の手を握った。

 「軍曹が手塩にかけて育てた芽は決して無駄にはしない――。必ず開花させてみせる」

 ――その言葉に嘘はない。それは理解している。でもそれを言った本人でさえ最前線で命を懸けているのだ。
 それに比べて私は――教え子を地獄に送り出すだけで、自分は基地のなかで安穏と……。

 何も言えなかった――。
 情けないことに教え子の前にもかかわらず私は涙を零してしまった。
 
 「……軍曹。大丈夫ですよ。心配しないでください。」
 
 伊隅の優しい声が痛かった。だから私にはもう涙をこらえる術がなかった。




 どのくらい泣いていたのだろうか? しばらくして伊隅が小さく囁いた。

 ――軍曹、覚えていますか? 私を殴りながら教えてくれましたよね。
 ――どんなに格好が悪くても生き残るのが大事だ……って。
 ――大丈夫。ウチの連中は皆、それをしっかり守ってますよ。
 ――だから軍曹は安心して次の世代を育ててください。
 ――でないとウチの連中も安心して戦えません。

 それから伊隅はしっかりとした声で私に告げた。

 「死力を尽くして任務にあたれ! 生ある限り最善を尽くせ! 決して犬死にするな! ――ウチの中隊の隊是ですよ。全部、軍曹の教えです」








 書類作業を全て終わらせた私はピアティフ中尉と別れ、伊隅に手を引かれてさらに地下に降りていった。
 どうしても見せたいものがあると伊隅が言うのだ。
 やがて照明の落ちた倉庫の入り口に私たちはたどり着いた。
 入り口に手書きの看板が掲げられていて、こう書かれていた。

 ――ヴァルハラ――
 
 「扉を開けて覗いてみてください」
 
 伊隅はそう私を促した。言われるままに扉を開ける――。
 
 「……せーのっ!」

 暗闇の中で知っている声がした。とたんに部屋の明かりが灯り、いくつものクラッカーが楽しげな音を響かせた。
 
 「――神宮司軍曹! 207訓練小隊錬成、お疲れさまでしたっ!」

 いくつもの声が重なっていた。倉庫の中はまるでパーティー会場のように飾られていて、そこにはA-01部隊の連中が勢ぞろいしていた。

 「……なかなかこういう機会もないものですから」

 伊隅が呟いた。――ウチの連中の気分転換も必要ですので。お付き合いして頂きますよ――。小さく笑っている。

 「……まったく……。貴様らときたら……」

 速瀬がいた。涼宮がいた。宗像がいた。A-01部隊の皆がいた。私の教え子たちがいてくれた。
 そうだ。私が、泣いたり笑ったりしながらも厳しく育てた仲間がいた。
 もちろん全員ではない。欠けた顔もある。もう二度とは会えない連中もいる。それは悲しむべきことだ。――それでも。
 誰かが一人でも生きてさえいてくれれば――。
 我々はそれを語り継ぐことができる。それを託しあえる仲間がいる。
 そんな仲間がここにはいる。

 「神宮司軍曹! ここには神宮司学校の卒業生しかおりません……! いわば同窓会みたいなものです」

 伊隅の顔は驚くほど真剣だ。

 「……従ってこれ以降は――。……貴官を軍曹ではなく教官と呼ばせて頂く! よろしいですね? 教官」

 ――まったくもってコイツらときたら……。

 「……好きにしろ」

 私が答えると同時に喚声が再び巻き起こり、クラッカーの音が再び鳴り響く。皆が笑い、乾杯の準備を始める――。
 その様子はまるで家族のようであって学校のようであって――。

 「神宮司教官、何やってるんですか? コップ持ってください! 」

 涼宮が私にコップを差し出してくる。コップの中には、なみなみとシャンパンが注がれていた。

 「……内緒ですよ? 京塚のおばちゃんがちょろまかしてくれた、高級士官用の本物ですから! 」

 速瀬がはしゃいで言った。
 全員に行き渡ったところで、伊隅が軽く咳払いをしてから音頭をとる。

 「……それでは僭越ながら……神宮司学校とA-01部隊の未来を祝してっ……。乾杯っ! 」

 そこにはどんなことがあっても、決して諦めない仲間がいた。
 どんなに辛いことがあっても笑って進んで行く仲間がいた。
 私が育てた? ……いや、そんなことを言うのはおこがましい。でも、これだけは胸を張って言える――。
 彼女等が最初の一歩を踏み出した時、私は間違いなくそこにいて彼女等とともに歩んでいった。彼女等の手を引いてやることができた。

 ここに207訓練小隊の連中が加わる。連中も同じだ。強く優しく逞しくあって、未来を切り開こうとしている。
 私はそんな連中に仲間を引き合わせることができるのだ。こんなに素晴らしいことは他にはない。
 何も心配することはないのだ。

 ――だから私も笑って送りだしてやろう。

 私に出来ない事は、きっと伊隅がやってくれるだろう。伊隅が出来ない事は速瀬が。そして涼宮が。宗像が。風間が。
 私たちはつながっているのだ。
 そうなった私たちに出来ない事などあるのだろうか?

 胸が熱くなり、涙をこらえるのが大変だった。
 伊隅が私のコップにシャンパンを継ぎ足し、ご苦労様です、と笑って言う。
 柏木が茜と笑っている。風間がバイオリンで軽快な曲を弾きだす……。
 宗像が速瀬をおちょくっている。慌てた涼宮が仲裁にはいろうとしている……。

 宴はまだまだ続いていて、いつ果てるか予想はつかなかった。
 夜はゆっくりと深くなっていくが、それに反比例するかのように喧騒はますます強くなり……。









 私はいま……。――幸せなのだ。



































 「……ら~かぁらぁあ、あん事故のぉ時はぁ、どぉ~うなるかと思っ、ったのよおぅ。……わぁかるぅ?」

 「……いえ……」

 「……ふぅんとにぃ……速瀬はぁ~、うわんわん泣いてぇぇるぅしい、涼宮はぁ、たおれたまんまでぇ、目ぇ覚まさないしぃ……」

 「……」

 「……私はねぇぇ!……涼宮がぁ三年っくらいはぁ、あにょまま目を覚まさぁ~ない、か、と思ったわよ……」

 「……」










 「……誰だ? 神宮司教官に合成日本酒を飲ませたのは? 」

 「……すみません、大尉。……私です」

 「……むぅ~なぁ~か~た~!!!!!」





 夜は更けていく。
 時計の針は零時を過ぎていて、207訓練小隊の解隊式当日を迎えていた。

 

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